Another Blue ~もう1つのブルー

俺たちが生きて行くために、今 愛が必要なんだ

ランチタイム

「お昼一緒に食べに行かない?」ふいに彼女から声を掛けられた。 
「うん、いいよ!」俺は一瞬驚いたけれど二つ返事で言葉を返した。 

まさか隣の席に偶然座ることになるなんて夢にも思っていなかった。 

彼女とは小学校で同じクラスだったけれど、何せまともに話したこともなかったし、小学校を卒業後、すぐに親の転勤か何かで、町から出て行ってしまったから、その後彼女が何処でどうしていたのか、どんな人生を歩んできたのかさえ知らない。 

そんな彼女を何故この歳まで憶えていたのか、それには大きな一つの理由があった。 

席を立ち上がってオフィスを出ると、彼女に誘われるままに半歩後に続いた。 
200mも離れているかいないか位の、雑居ビルの2Fのレスト喫茶へと彼女は階段を昇っていった。 

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ドアを開けると、「いらっしゃい」店主らしき気さくな感じのおじさんが一人カウンターを挟んで立っていた。 

目が合ったので、軽く会釈をして、俺は彼女の後に続いて窓際の席の向かい側に座った。 

もう小学校を卒業してから30数年が経っていたが、パッと見で、すぐに彼女だと分かったのは、子供の頃の面影が強く残っていたからだ。 

メニュー表に目をやりながら、しばらく沈黙が続いたが、堰を切ったように俺から話しかけた。 

「ねぇK子さん、確か誕生日は11月だったよね?」「ええ、そうよ」 
「で、10日生まれでしょう?」「そうそう、なんで知ってるの?」 

「だって俺と同じ誕生日だから」俺は少し照れながら、そう答えた。 

そう!それこそが彼女を強烈に憶えていた理由だったのだ。 

それから彼女は、あの町を出てからのことや、今までのことを淡々と話し始めた。 
いつもだったら誰彼構わず自分の話をしたがる俺は、珍しくピラフを口に運びながら彼女の話に相槌を打っていた。 

とそこに、20代後半くらいのヒゲ面の男がドアを開けて入って来た。 
そして辺りをキョロキョロすると、すぐに俺たちの席の隣の席に座った。 

ランチタイムは既に始まっていたが、席はまだたくさんあるのだから、わざわざ隣に座らなくても・・・。そう思ったのは、そいつの視線が終始チラチラと彼女の方を向いていたからだった。 

そればかりか何か話しかけそうな面持ちで、身体を俺たちの席のほうに斜め30度ほど向けて座っている。 

俺はなんとなく気まずさを感じてトイレに立った。 

席から戻ると案の定、その男は彼女と何か親しげに話していた。時折見せる彼女の笑顔に、何だかいたたまれなくなって、俺は席に戻らずに店主のいるカウンター席に座った。 

そして店主と取り留めの無い世間話をしながら、その場を取り繕った。 

店を出ると彼女は「ごめんなさいね!」と謝ってきた。 
親しげに話していたあの若い男は、同じアパートの住人なのだという。 

「いえいえ、こちらこそご馳走様でした。」そう答えたものの、自分の中に軽い嫉妬心が芽生えていたことは否定できなかった・・・。 





撮影:RICOH CX2 


【ショートストーリー+写真②】 

*この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。